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【事件名】ゲーム海賊版事件(刑)
【年月日】平成8年3月1日
 東京地裁 平成7年特(ワ)第3530号、同年刑(わ)第2624号

判決
本店所在地 東京都(以下住所略)
 株式会社メディック
 (右代表取締役Y・T)
本籍 横浜市(以下住所略)
住居 同市(以下住所略)
 会社役員Y・T
  昭和31年(以下略)生
 右株式会社メディックに対する著作権法違反、Y・Tに対する著作権法違反、わいせつ図画販売、同販売目的所持各被告事件について、当裁判所は、検察官沖原史康、弁護士吉田秀康各出席の上審理し、次の通り判決する。


主文
 被告人株式会社メディックを罰金100万円に、被告人Y・Tを懲役2年6月にそれぞれ処する。
 被告人Y・Tに対し、この裁判の確定した日から4年間その執行を猶予する。
 被告人株式会社メディックから、押収してあるCD−ROM2枚(平成8年押第129号の1)及び警視庁万世橋警察署で保管中のCD−ROM298枚(平成8年東地庁外領第280号符号279−1−2)を、被告人Y・Tから押収してあるCD−ROM2枚(平成8年押第129号の2)、警視庁麹町警察署で保管中のCD−ROM545枚(平成7年東地庁外領第6687号符号19−2)及び同警察署で保管中のCD−ROM4枚(平成7年東地庁外領第6687号符号20)を、それぞれ没収する。

理由
(罪となるべき事実)
第一 被告人株式会社メディック(以下「被告会社」という)は、東京都(以下住所略)に本店を置き、(住所略)に事務所を設けてコンピューター技術に関する技術指導を営むもの、被告人Y・T(以下「被告人」という)は、被告会社の代表取締役として同社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、同社の従業員A・Uと共謀の上、同社の業務に関し、法定の除外事由がなく、かつ、著作権者の許諾がないのに、
一 別紙1の一覧表記載のとおり、平成7年2月17日ころから同年5月28日ころまでの間、前後12回にわたり、Y・Iほか11名に対し、任天堂株式会社が著作権を有するプログラムの著作物であるスーパーファミコンゲーム用ソフト「ドンキーコングカントリー」の複製CD−ROM合計13枚を、著作権者の許諾を得ずに複製されたものであることの情を知りながら、代金合計28万5000円で、(住所略)ほか11か所の各頒布場所に郵送する方法により販売して頒布し、
二 同年10月16日ころ、前記(住所略)管理人室において、前記と同様の複製CD−ROM合計300枚(平成8年押第129号の1、同年東地庁外領第280号符号279−1−2)を、著作権者の許諾を得ずに複製されたものであることの情を知りながら、頒布の目的を持って所持し、
 もって、右任天堂株式会社の著作権を侵害した。
第2 被告人は、
一 別紙2の一覧表記載のとおり、同年7月18日ころから同年9月29日ころまでの間、前後10回にわたり、前記(以下住所略)株式会社メディック事務所ほか2か所において、K・Nほか2名に対し、男女の性交場面等を露骨に撮影した写真多数を電気的に記録したわいせつな図画であるスーパーファミコン用カセット合計609本を代金合計188万5630円で販売(但し、別紙2の一覧表番号9及び10の各販売先については、各販売場所に郵送する方法により販売)した。
二 販売の目的で、同年10月16日ころ、前記(以下住所略)株式会社メディック倉庫兼作業場において、男女の性交場面等を露骨に撮影した写真多数を電磁的に記録したわいせつな図画であるCD−ROM合計551枚(平成8年押第129号の2、同7年東地庁外領第6687号符号19−2及び符号20)を所持した。

(証拠の標目)
省略

(補足説明)
一 判示第2の二のCD−ROMに、判示のとおりのわいせつな写真が記録されていることは証拠上明らかである。しかしながら、弁護人は、情状論としつつも、「パーソナルコンピューターを使用して、記録されているわいせつ写真の画像を表示させようとしても、通常の操作では、わいせつ該当部分が白色等で覆われた状態(この状態を以下「マスクのかかった状態」という)の画像しか表示することができない。従って、本件CD−ROMは、わいせつ図画には該らないというべきである」旨主張しているので、念のため検討する。
二 関係証拠によれば、以下の事実が認められる。
(一) 本件CD−ROMは、アップル社製のパソコン「マッキントッシュ」及び基本ソフト「マイクロソフト・ウインドウズ・バージョン3.1」を内蔵しているパソコンにおいて使用可能なソフトウエアである。弁護人も認めるように、右マッキントッシュを使用した場合には、マスクのないわいせつ写真の画像を容易に表示させることができる。
(二) 右ウインドウズを内蔵しているパソコンの場合であっても、右ウインドウズの利用方法を理解しているユーザーであれば、画像データファイルを直接読み込む操作を行うなどの手順により、比較的容易に、マスクのないわいせつ写真の画像を表示させることができる。
(三) 被告人自身、本件当時右(一)及び(二)の事実を十分認識していた。そして被告人は、通信販売により本件CD−ROMを顧客に販売するため、ダイレクトメールによる宣伝広告を行っていたが、その宣伝広告文中には「CD−ROMに記録されている写真には女性の陰部が写っている。写真にはマスクがかかっているが、簡単にはずすことができる」旨の記載がある。
三 右の諸点に照らせば、通常のパソコン・ユーザーは、本件CD−ROMに記録されたマスクのないわいせつ写真の画像を、比較的容易に表示させることができ、被告人も、それを当然の前提として本件CD−ROMを販売しようとしていたことが明らかであって、本件CD−ROMがわいせつ図画に該ることには疑問の余地がない。
 (なお、判示第2の一のスーパーファミコン用カセットについても、本件CD−ROMと同様のマスクの問題があるが、通常の使用方法により表示されたマスク付きの写真の中には、マスクを除去しなくともわいせつ該当部分が一部露出しているものも含まれているので、右カセットがわいせつ図画に該ることは明らかである。)

(法令の適用)
一 罰条
1 被告会社
 判示第1の各事実につき、包括して著作権法124条1項、119条1号。
2 被告人
 判示第1の各所為につき、包括して刑法60条、著作権法119条1号。
 判示第2の所為につき、包括して刑法175条。
二 刑種の選択
 被告人につき、いずれも懲役刑。
三 併合罪の処理
 被告人につき、刑法45条前段、47条本文、10条(重い判示第1の罪の刑に法定の加重)。
四 刑の執行猶予
 被告人につき、刑法25条1項
五 没収
 刑法19条1項1号、2項本文。

(量刑の理由)
 本件は、コンピューター技術に関する技術指導等を目的とする被告会社の代表取締役である被告人が、被告会社の資金繰りに窮したため、違法行為を行ってでも資金を調達しようと考えて、判示第1のとおり、被告会社の業務に関し著作権法違反行為を行ったほか、判示第2のとおり、わいせつ図画販売及び同販売目的所持の犯行に及んだという事案である。右のとおり犯行の動機は、安易かつ自己中心的なもので酌量の余地がなく、いずれの犯行も、コンピューターやソフトウエアに関する専門知識を悪用し、判示のCD−ROMを大量に生産させた上、雑誌に広告を掲載して大々的にその販売を図るなど、計画的、組織的、継続的なもので極めて悪質である。また、本件各犯行の売上高も相当高額にのぼる上、被告人及び被告会社は、本件により経済的損失を被った任天堂株式会社に対し、被害弁償の措置等を何ら講じていないことも看過できない。更に、今後パーソナルコンピューターの一層の普及に伴い、本件同様のCD−ROM等を利用した犯罪の増加も予測されることに鑑みると、この種事犯に対する一般予防の必要性も高いというべきである。このほか、被告人及び被告会社は、平成3年7月に著作権法違反の罪によりそれぞれ罰金50万円に処せられておりながら、その経験を何ら省みることなく本件第1の同種事判に及んでいることも併せ考えると、被告人及び被告会社の刑事責任は重いというべきである。
 他方、被告人は、警察の捜索時に発見されなかった判示第1の二及び第2の二関係のCD−ROMを、自主的に捜査機関に提出していること、被告人が本件犯行を反省していること、被告会社は、これまで医療関係等のコンピューター・ソフトウエアの開発・販売を手掛けるなど社会に貢献する事業も行ってきたこと、その他被告人の家庭環境等被告人及び被告会社のために酌むべき事情も認められる。
 そこで、当裁判所は、以上の諸情状を総合考慮の上、主文のとおり量刑した次第である。
よって主文のとおり判決する。
(求刑 被告会社・罰金100万円、被告人・懲役2年6月、被告人両名・没収)

平成8年3月1日
東京地方裁判所刑事第8部
 裁判官 平木正洋

別紙(省略)                        
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日本ユニ著作権センター
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